注) これは、2005年夏,暑中お見舞いの時に、書いた文章です。
1.
「亀も空を飛ぶ」バフマン・ゴバディ監督2004年イラク・イラン~イラン・イラク戦争・湾岸戦争・アメリカ他によるイラク攻撃
昨年の東京フィルメックス映画祭でのタイトルは「Turtles can
fly(原題)」。地雷原に生きるクルド人の子ども達を冷徹に撮った作品。9/17~岩波ホールで上映。是非ご覧になってください。少年の恋心は命を危険に晒すほど(←自覚していないようだが)一途なのに、少女にとってはまるで有難くない。この映画を観ると子ども達が大変な重荷を負っているのが容易に見て取れるが、彼ら・彼女らにこんな苛酷な人生を負わせた私達大人こそ、実は逃れようのない十字架を背負っているのではないだろうか・・・。
2.
「にがい涙の大地から」海南友子監督2004年日本~第二次世界大戦(日中15年戦争)
旧日本軍が中国東北部に遺棄した毒ガス兵器・砲弾による事故は、戦争が終わって60年経った今でも起き続けている。事故に遭うと、一生後遺症に苦しみ(治療法は存在しない)、莫大な治療費を抱えて極貧生活に家族ともども転落する。何組かの被害者及び家族が東京地裁に損害賠償請求訴訟を起こし、第一審では全面勝訴。が、国側が控訴して、現在東京高裁で審理中(※)。国側の控訴が期限ぎりぎりではなく「すかさず」だったのが気になる。勿論全面敗訴を予想して準備していたからだろうが、それ以上に「控訴するな」という世論の圧力は気にするまでもない程度だと見くびっていたようだし、控訴審で引っくり返せるという見込みもあったとしたら・・・。
※控訴審では、逆転敗訴になりました。
上映情報は、電話03-3357-5140
www.kanatomoko.jp
3.
「神のいない3年間」マリオ・オハラ監督1976年フィリピン~第二次世界大戦(太平洋戦争)
タイトルの言葉は監督のオリジナルではなく、フィリピンの歴史用語として日本に支配されていた時期を指す。フィリピン大使館員とジャーナリストから「日本兵士が悪人に描かれているが驚かないように。これでも「日本の兵士がこんなに人間的であるわけがない」と国民からは抗議が殺到したのです」と念を押された上で観たら、相思相愛のカップルを引き裂いて女性を無理やり自分の妻にする日本人兵士、相当嫌な男!しかし殺される間際に「自分はいいから逃げろ」と妻に言うあたりが「そんなはずない(日本人はもっと卑怯なはず)」とフィリピンの人には思われたようだ。でも私にとっては、悪い日本人の存在よりも、解放直後にヒロインが「日本人に加担した」として虐殺されるのが礼拝堂内だったことの方がショックだった。
4.
「金色の雲は宿った」スラムベク・マミーロフ監督1989年ソ連~第二次世界大戦(民族強制移住に伴うチェチェン内戦)
チェチェン問題は、この映画を観ずして語るなかれ。ともに肉親を殺されたコーリャ(ロシア人)とアルフズール(チェチェン人)だが、復讐するのではなくむしろ積極的に助け合う子ども達。対して「同胞」民族の子どもに優しくても他民族に対しては恐ろしく冷酷な若者が登場する。コーリャもアルフズールもそんな周囲に抵抗し続けることができるのだろうか。昨年のベスランでの惨事以降この作品の上映機会が増えているのは何とも皮肉だ。三百人劇場「ソビエト映画回顧展2005」にて上映。
5.
「炎628」エレム・クリモフ監督1985年ソ連~第二次世界大戦(ハティニの虐殺)
ドイツ軍占領下の白ロシア(当時)で住民(といってもほんの少年)のパルチザン参加の報復として住民ごと焼き払われたハティニ村虐殺事件の再現映画。この映画を観るまで、戦争は勝手なおじさんたちが始めて皆に迷惑をかけるものだという程度の認識、「パルチザン」というと恰好よく響き(サッカーのチームの名だ)ましてや「少年パルチザン」というと決死の覚悟をした美少年を想像していた(「僕の村は戦場だった」など)。ところがこの映画の主人公はさえない男の子で悲壮な決意というより遊びの延長みたいにして志願してしまう。ぼうーっとした感じが当時仲の良かった子と共通しており、突然「戦争は隣に座っているこの子でも否応なく巻き込まれるものだ」と途轍もなく恐ろしくなった。ハリウッドの仰々しい戦争映画よりよほど応える。三百人劇場「ソビエト映画回顧展2005」にて上映。
http://otuken.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/628_e992.html
6.
「ホワイト・バッジ」鄭智泳監督1992年韓国~ベトナム戦争
731部隊とか南京虐殺とか大戦中日本軍が行ったという残虐行為の数々を知らなかったわけではない。それでもなお、戦争というと白人同士が戦っている図が私の中ではあったらしい。この映画に登場するのはベトナム戦争に派兵させられた韓国人の兵隊達。アジア人(韓国人)がアジア人(ベトナム人)を殺す、殺すことを強要される、殺すばかりでなく死体を損壊する行為も描かれる・・・。戦場での酷い体験の積み重ねゆえに帰還兵士は社会復帰できずに狂気に陥ってゆく。「炎628」が戦争の「同年代性」を意識させたものだったのに対して、こちらは「同胞性」を肌で感じさせてくれた恐ろしい作品。
7.
「風の輝く朝に」レオン・ポーチー監督1984年香港~第二次世界大戦(日本占領時の香港)
チョウ・ユンファはこの時期とてもよかったのですね。ラストでは、思わず「いい男を殺すな!」と叫びたくなった。日本のアジア侵略を映画的手法で(今振り返ってみるとあまり露骨ではなく)描いたことで話題になったが、あまり難しいことを考えずに恋愛映画・アクション映画として観ても充分楽しめる。ユンファもいいが、アレックス・マンが最高によい笑顔を見せている。
8.
「レッド・チェリー」イエ・イン監督1995年中国~第二次世界大戦(日中15年戦争及びヨーロッパ東部戦線)
第二次大戦終結50年を記念して中国が力を込めて作った作品だけに圧倒的な迫力を持つ。同年、日本が制作した戦争関連の映画は「きけわだつみの声」「ひめゆりの塔」のリメイク及び「ウィンズ・オフ・ゴッド」くらいである。この力量の違いは何なのか、悲しくなった(リメイクは案の定オリジナルを超えるものではなかった)。幾つかの実話を組み合わせ、ベラルーシ・モスクワでの中国人留学生の苛烈な戦争体験を綴る。ラストでヒロインに抱かれるロシア人の少女の可憐さが悲劇性を顕にしている。ソ連領土内でのドイツ軍の残虐な行為が容赦なく描かれるが、ヒロインの悲劇の発端は日本軍に父を処刑されたことに始まる。
9.
「僕を愛した二つの国~ヨーロッパ・ヨーロッパ」アグニエスカ・ホランド監督フランス・ドイツ1991年~第二次世界大戦(ヨーロッパ東部戦線)
家族を殺され出自をひた隠しドイツ人と偽って第二次世界大戦下のポーランド・ドイツで生き抜くユダヤ人少年は、その過程で助かるために嘘をついたり友人を見殺しにしたり、「命が助かるたびに魂が滅んでいく」というキャッチフレーズのとおりそのたびに激しく苛まれる。「アーリア人は頭蓋骨を測ればわかる」とのたまう学校の先生にはばれなくても(「科学的な方法」は意外に当てにならないようだ)、ユダヤ人だと見抜かれてしまった人間が二人。民族的なアイデンティティとは何なのか、考え込んでしまう。こういう状況で生き延びる必須要件は好感を持てる人柄なのだろうか?
10
「誓いの休暇」グリゴーリー・チュフライ監督ソ連1959年~第二次世界大戦(ヨーロッパ東部戦線)
これはもう何も書くことはない。名画中の名画。三百人劇場「ソビエト映画回顧展2005」にて上映。
おっと、もう10本になってしまいました。パレスティナとかベトナムとかも挙げたかったのに。ソ連や旧東欧(ホランドはポーランド人)の作品ばかりになるかと思ったら、意外とアジアのものが多かった。それでも地域的に偏りはありますが、気にしないことにします。アメリカなどの戦争映画は、私が薦めなくてもご覧になるでしょうから。近日公開予定があるとか、既にDVD化されているとか、TVで放映されるとか、実際に観ることができるのかどうかも考慮せず、思いつきで列挙したので、残念ながら相当注意を払っていないと見逃す恐れのある作品ばかりです。