2011年3月5日土曜日

名前の印象(2008/03/26 22:23:27)

エリザベスは成功しそうでジョンは運が悪そう? 英国で名前の印象調査
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2369676/2774879?blog=fruitblog
という記事で、考えたこと。
 
名前から受ける印象というのはロシアの人名でもあるらしく、と言いますか、地域的・階層的な片寄りに由来する印象だったりもするのですが。
例えば
オクサーナ→ウクライナ人ないしウクライナ系の女性名
タマーラ→グルジアの女王の名前なので、グルジア系であることが多い
ワシリー、ワシリーサ→農民に多い(ついでながら、雄猫にワーシャという名前が圧倒的に多い気もする)
タチヤーナ→かつては<田舎っぽい>名前だったが、プーシキンの「エヴゲニー・オネーギン」以来貴族の間でも流行って、<高貴な>印象を与えるようになった。
などは、基礎的な知識。
 
井上幸義先生のクラスメイトには、トマトの研究者(某大学農学部の先生)がいらっしゃり、ロシアの学者とも情報交換しつつ、「長持ちするなかなか腐らない(今風にいえばアンチエイジング?)トマト」だの「運びやすいように四角っぽいトマト」の開発に勤しんでいるという。
その先生曰く「自分がつくったトマトには自分に命名権があるので、私はロシア語の名前をつけようとして、最初のには<スパシーバ>、その次のには<ハラショー>と名付けたのです。」
(言うまでもないことかもしれませんが、「ありがとう」「すばらしい」という意味のロシア語の単語です。)
「次に作るのには、はて、どんな名前をつけようかと思っているのですが、皆さんはどんな名前がいいと思いますか?」
それに対して、本職は中国語の先生(井上先生のクラスメイトにはなぜだか学校の先生が多かった)でいらっしゃる方が
「女性の名前なんかいいんじゃないですか?たとえばエカチェリーナとか」
とおっしゃると、トマトの先生は
「あ、それ、いいかもしれませんね、エカチェリーナ。なんかちょっと皇室御用達みたいで」(←そうかしら????)
とか言ってましたけれど、結局どうなったのでしょうか、トマトの名前。
 
それと、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』(小野理子訳岩波文庫)の解説によれば、
・マリーナ・・・本来、乳母っぽくない名前。零落した名家の出か?
・エレーナ・・・トロイア戦争の原因となったヘレネに由来する名前。なので、「美女」がイメージされる。
・ソフィア・・・ギリシャ語の「叡智」。文学作品上は、エレーナと逆で、「不美人」であることが多い。
ということが書かれていて、なかなか興味深かった。
実際、『ワーニャ伯父さん』のソーニャは、「私、<あの娘はとても気だてはいいのだけど、顔がね・・・>って言われているの」と、継母となる美女エレーナに告白する不細工な娘さんという設定。
(しかしそう言われても、エレーナとしても如何ともし難いのだが。)
  ↑
ソ連映画「ワーニャ伯父さん」では、しかも件のセリフを発するソーニャ役が、イリーナ・クプチェンコ!
美人女優のくせに、「私ってブスだから」とは、それはないだろう!な一言である・・・。
 
ソフィア=ソーニャという不美人・お人好しというキャラクターがヒロインとなったロシアの文学作品というと、沼野恭子先生が『アヴァンギャルドな女たち』で言及されている3人のソーニャ。
その中でも、タチヤーナ・トルスタヤの「ソーニャ」(『金色の玄関に』)は、心に残るものでした。
<叡智>という名前なのに、お人好しで、皆に馬鹿にされているソーニャ。
からかわれて、架空の恋人との文通に真剣になってしまうソーニャ。
時は1941年、レニングラード。ドイツ軍による封鎖の中、ソーニャの恋は・・・。
ヒロイン、ソーニャがギリシア起源の古風なネーミングなのに対して、もうひとりのヒロイン、アーダは当時としてはハイカラな名前だったのではないか。
(ナボコフの小説のタイトルにありましたね。)
私はアーダの心境もわかる気がする。
封鎖の中、父を、兄を、橇に乗せて、墓地まで運ぶ。次に死ぬのは自分。
女は辛いよ。
だけれど、女は、ソーニャにしろ、アーダにしろ、そんなことは人には決して言わないのだ。
泣けました!!
ウリツカヤの「ソーネチカ」より、トルスタヤのソーニャとアーダの方が、自分には近しい気がする。
 
ところで、「英国での名前の印象調査」記事には、私のロシア名(なんてものが実はあるのだね。好きな映画監督の名前をいただいたのですが)もランクインしていましたわ。
おそらく、英国とロシアでは、かの名前の印象は全く違うのではないか??

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