これは手放しで「おもしろい!」と言える本。『古いシルクハットから出た話』
アヴィグドル・ダガンの作品は、『宮廷の道化師たち』も読んだことがあるけれど、こちらは直接ナチスと係わるので、暗く重~い印象を残します。
今度の『古いシルクハット~』は、高島屋で買ったシルクハットから手品のように湧き出る思い出話・・・という体裁の、チェコ語作家にして元イスラエル外交官というダガンその人の回想録のようなの短編連作。
作品の舞台となるのは、ダガンが実生活で外交官として赴任した都市(ラングーン、ベオグラード、、ワルシャワ、オスロ、レイキャビク、東京、ウィーン)。
但し、1949年にチェコスロヴァキアからイスラエルに渡ったダガンが実際にイスラエルの外交官であったのは1977年までとのことだが、「シレンカ」にはイスラム革命後のイランがほの見える(ここでイランの美男子が登場し、これで私はかなりの満足を味わった)ので、まるきり実話を下敷きにしているとも言えず、やはりかなりの部分はフィクションなのでしょう。
ユダヤの出自への思い入れというのか、こだわりを持つ人々の、どちらかといえば悲しい話が多いけれど、軽々と読み進めていける文体で、それでいて深くため息をつきたくもなる、そんな話です。
50~70年代のイスラエルの外交官とは、実に実に困難な職に就いていたものですね。
この時代にイスラエルがやっていた所業については弁解の余地がないものも少なくないだろうと思われ、彼がその一端を担っていたことも事実。
だから「手放しでおもしろい」などとは言ってはいけなかったのかもしれない。
しかし、彼の場合、「チェコ語作家」というもう一つの職業、もう一つの顔、もう一つの人生があって、おそらくこちらの面の方が永遠性を持つのでしょう。
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